外国人材の中には、配偶者が資格外活動許可を受けて(週28時間以内で)パートタイムで働いている方も居られると思います。日本では配偶者も健康保険や年金保険料などの社会保険への加入が義務付けられています。また、一定以上の年収がある配偶者は社会保険料を自ら支払うことになります。一方で、支払った社会保険料は税金を計算する際に給与所得から控除することができ、所得税や地方税を減らすことができます。これは「社会保険料控除」と呼ばれています。
配偶者の年収と勤務先の年金・健保の加入状況が以下のEのケースに当てはまる場合、配偶者の社会保険料を主たる家計維持者の所得から控除することにより、所得税控除の金銭的効果を高めることが期待できます。該当する方はこの記事の続きを読んでみることをお勧めします。該当しない方でも社会保険料控除の仕組みにご興味のある場合は、続きを読むと仕組みが分かると思います。
- E: 配偶者の年収が106万円 又は 130万円以上で、配偶者の勤務先自体又は配偶者が厚生年金・職域健康保険に未加入で、配偶者が国民年金・国民健康保険に加入している場合
この記事では、社会保険料控除の仕組みと手続きの概要を以下の観点から書き出します。更なる詳細や具体的な質問は、勤務先の人事部門や税務署又は税理士にお聞きください。
社会保険料控除の仕組み
まず、所得税の仕組みの概要を述べます。所得税は以下の計算式で金額が計算されます。ここでの「所得」とは、一年間の総所得を指します。
- 所得 = 収入 ー 必要経費
- 所得税 = ( 所得 ー 所得控除 ) x 所得税率
- 所得税率: 下表を参照
所得控除できる費用
所得控除できる費用の例としては下記のものがあります。この記事の社会保険料もそういった所得控除ができる費用ののひとつとなります。っっg
- 医療費控除、社会保険料控除、 生命保険料控除、 地震保険料控除、寄附金控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、基礎控除、他
所得からこれらの控除のうち該当するものを差し引いた金額に、税率を掛けて所得税を計算します。
所得控除としての社会保険料控除
所得控除の一つとして、公的な年金と健康保険などに支払った社会保険料は、全額、所得税・地方税の課税対象となる所得から控除することができます(社会保険料控除)。
- 所得税 = ( 所得 ー 社会保険料控除 ) x 所得税率
所得税率と簡易計算のための控除額
所得税率は所得の千円未満を切り捨てた所得金額を金額帯で分けて、その金額帯毎に対応する税率をかけてそれらの総和が所得税となります。所得金額毎の税率は本記事の作成時点(2020年12月)で、以下のようになっています。
- 1千円 から 1,949千円 まで
- 税率 5% (簡易計算控除額:1D = 0円)
- 1,950千円 から 3,299千円
- 税率 10% (簡易計算控除額:2D = 97,500円)
- 3,300千円 から 6,949千円
- 税率 20% (簡易計算控除額:3D = 427,500円)
- 6,950千円 から 8,999千円
- 税率 23% (簡易計算控除額:4D = 636,000円)
- 9,000千円 から 17,999千円
- 税率 33% (簡易計算控除額:5D = 1,536,000円)
- 18,000千円 から 39,999千円
- 税率 40% (簡易計算控除額:6D = 2,960,000円)
- 40,000千円 から
- 税率 45% (簡易計算控除額:7D = 4,796,000円)
基本的な計算方法
計算例: 所得が5,000,000円の場合
- 所得を金額帯に分割すると、5,000,000円は以下のように3つに分割されます: 5,000,000 = 1,950,000 + 1,350,000 + 1,700,000
- 1,950,000円 = 1,950,000円までの部分
- 1,350,000円 = 1,950,000円から3,3000,000円までの部分
- 1,700,000円 = 3,300,000円から5,000,000円までの部分
- それぞれの部分に税率をかけると、
- 97,500円 = 1,950,000円 x 5%
- 135,000円 = 1,350,000円 x 10%
- 340,000円 = 1,700,000円 x 20%
- 従って、所得税額はこの3つの金額の合計の以下となります。
- 572,500円 = 97,000 + 135,000 + 340,000
簡便な計算方法
上記が所得税計算の基本です。しかし、所得を金額帯で分けて各々の税額を計算し、さらにそれらを合算するので手間がかかります。簡易計算控除額を使って以下のようにも計算できます。
計算例: 所得が5,000,000円の場合
- 500万円は3番目の金額帯 III に入るので、その金額帯の税率20%を掛けて、そこから簡易計算控除額(3D)を減じます。
- 572,500円 = 5,000,000円 x 20% − 427,500円
- = 1,000,000円 − 427,500円
社会保険料と控除の類型
社会保険料の控除の仕方に関して、主たる生計維持者と配偶者に分けて以下に類型化します。この「主たる生計維持者」とは世帯の中で、家計・生計を主に支えている者を指します。(例: 夫が就労ビザで働いていて、妻が家族滞在ビザの世帯の場合、夫が主たる生計維持者となり、妻が配偶者となります)。
社会保険料と控除: 主たる生計維持者 2つの類型
この社会保険料控除の仕方には、勤務先での社会保険の適用に応じて以下の2つの類型があります。
A: 主たる生計維持者が労働者で勤務先が厚生年金・職域健康保険に加入している場合
- 勤務先・会社が年末調整で所得から社会保険料控除を実施する
B: 主たる生計維持者が自営業又は労働者で勤務先が厚生年金・職域健康保険に未加入で、個人として国民年金・国民健康保険に加入している場合
- 本人が個人として自ら確定申告で社会保険料控除を実施する
社会保険料と控除: 配偶者 3つの類型
配偶者の社会保険料控除には以下の3つの類型があります。年収が限度額(106万円又は130万円)未満なのか限度額以上なのかと、勤務先が厚生年金・職域健康保険に加入しているのかで、当てはまる類型が決まります。
C: 配偶者の年収が106万円 又は 130万円未満
- この場合は配偶者は被扶養者となり、保険料の直接の負担なし
- 年金の資格は、国民年金第3号
- 健康保険の資格は、被扶養者
D: 配偶者の年収が106万円 又は 130万円以上で、配偶者の勤務先の厚生年金・職域健康保険に加入している場合
- この場合は配偶者は被保険者となり、保険料の負担あり
- 配偶者の勤務先・会社が年末調整で所得から社会保険料控除を実施する
- 年金の資格は、厚生年金 (国民年金2号)
- 健康保険の資格は、被保険者
E: 配偶者の年収が106万円 又は 130万円以上で、配偶者の勤務先自体又は配偶者が厚生年金・職域健康保険に未加入で、配偶者が国民年金・国民健康保険に加入している場合
- この場合は配偶者は被保険者となり、保険料の負担あり
- 本人が個人として自ら確定申告で社会保険料控除を実施する
- 年金の資格は、国民年金1号
- 健康保険の資格は、被保険者
被扶養者の限度額 (106万円又は130万円)
限度額の原則は年収130万円ですが、一定規模以上の事業所に勤務している場合で、下記の条件を満たした場合にはその限度額が年収106万円に引き下げられます。注:下記の条件は今後更に改正される予定になっています。5の従業員数の規模条件を緩くして、より広範囲の短時間パートタイム労働者に厚生年金に加入してもらうための政策に沿った改正となります。具体的には、現在の「501人以上」が、2022年10月には「101人以上」、2024年10月には「51人以上」と改正されることが予定されています。
被扶養者の限度額が106万円に引き下げられる場合
- 短時間労働者で、週の所定労働時間が 20 時間以上であること
- 雇用期間が 1 年以上見込まれること
- 賃金の月額が 8.8 万円以上であること
- 学生でないこと
- 以下のいずれかに該当すること
- 従業員数が501人以上の会社で働いていること
- 従業員数が500人以下の会社で働いていて、社会保険加入に労使合意がなされている
配偶者の社会保険料控除: 2つの方法
配偶者の社会保険料控除に関して上記のEの類型に当てはまる時、社会保険料控除の仕方には、以下の2つの方法があります。
- 配偶者が負担している場合には、配偶者の所得から控除する
- 主たる生計維持者が負担している場合には、主たる生計維持者の所得から控除する
結論を先に述べると、この「2. 主たる生計維持者の所得から控除する」方が控除の金銭的効果を高めることができる場合が多くなります。
社会保険料控除の金銭的効果
社会保険料控除が所得税額に及ぼす金銭的効果を、下記の数式で説明します。
- 所得税 = ( 所得 ー 社会保険料控除 ) x 所得税率
この数式を展開すると、以下のようになります。
- 所得税 = 所得 x 所得税率 ー 社会保険料控除 x 所得税率
この式の 社会保険料控除 x 所得税率 の部分が所得税の減少金額を表します。社会保険料控除 の金額は支払った保険料ですので、上記の2つの方法のどちらを取っても一定で変わりません。一方、所得税率 は所得の金額により変わります: 高額な所得者に対しては所得税率が高くなり、低額な所得者では所得税率は低くなります。つまり、社会保険料の控除額が同じでも、所得税率の高い高額所得者の方が控除による所得税額の減少金額が大きくなります。
2つの方法の比較 – ケーススタディ
事例を使って、上記の2つの方法での所得税減額分を計算して比較してみます。この事例では、配偶者の社会保険料と配偶者・主たる生計維持者の年間所得額を以下とします。
- 社会保険料: 合計 年間 400,000円
- 国民年金保険料: 年間 200,000円
- 国民健康保険料: 年間 200,000円
- 年間所得
- 配偶者: 所得金額 年 1,800,000 円
- 主たる生計維持者: 所得金額 年 6,000,000 円
すると、所得税の減少金額である 社会保険料控除 x 所得税率 は以下のようになります。
- 配偶者の所得から控除する場合
- 社会保険料控除 x 所得税率 = 400,000 円 x 5% = 20,000 円
- 主たる生計維持者の所得から控除する場合
- 社会保険料控除 x 所得税率 = 400,000 円 x 20% = 80,000 円
主たる生計維持者が負担している場合には、b. 主たる生計維持者の所得から控除する方が所得税の削減効果が大きいことが分かります。この事例では、80,000 – 20,000 = 60,000 円分の所得税の削減となることが判りました。
社会保険料控除の手続き
社会保険料控除を申告するには、会社に勤務されている方の場合、二つの方法があります。会社に勤務されていない自営業等の方は、下記の2番目の確定申告のみが配偶者の社会保険料を申請する方法となります。
- 勤務先の年末調整で、配偶者の社会保険料控除を申請する。
- 時期: 通常、11月頃
- 自らの確定申告で、配偶者の社会保険料控除を申請する。
- 時期: 通常、翌年の1月から3月頃
いずれの方法も、社会保険料の支払いを証明する書類の添付が必要になります。(支払いを証明する書類: 年金事務所から送られてくる年金保険料納付の証明書、国民年金保険料支払の領収書など)
問合せ先
社会保険料控除に関する詳細は、年末調整に関しては勤務先の人事部門に、確定申告その他に関しては税務署・税理士にお問い合わせください。