公的年金(国民年金・厚生年金)に加えて、企業年金・個人年金と呼ばれる任意加入の年金制度があります。
この企業年金・個人年金の中では確定拠出タイプの年金への加入者が増えています。確定拠出年金とは、拠出された掛金とその運用収益との合計額をもとに将来の給付額が決定する年金制度です。英語では Defined Contribution (DC)と呼ばれており、以前の主流であった確定給付年金(Defined Benefit: DB)と対比されます。公的年金のように強制加入ではないものの税制上の優遇措置があり、特に(選択制でない)企業型DC制度を採用している会社に勤務している外国人材など、確定拠出年金に加入している外国人材の方もおられると思います。この確定拠出年金では主に以下の2つの年金のタイプがあります。
- 企業型年金(企業型DC):掛金を事業主が拠出(規約に定めた場合は加入者も拠出可能)
- 個人型年金(iDeCo):加入者自身が拠出
この確定拠出型年金での留意事項は、原則として60 歳到達前の中途引き出しが認められていない点です。これはDC年金資産が老後所得となることを担保するための政策的な意図が背景にあります。(注:DBは支給開始時期到達前の退職時でも一時金支給を受けることが可能です)。厳密には以下の要件を満たせば中途で脱退し一時金を得ることができますが、その要件が厳しく、多くの場合満たすことができません。
- 企業型年金(企業型DC)の脱退一時金支給要件
- 企業型年金加入者、企業型年金運用指図者、個人型年金加入者及び個人型年金運用指図者でないこと
- 資産額が15,000円以下であること
- 最後に当該企業型年金加入者の資格を喪失してから6ヶ月を経過していないこと
- 個人型年金(iDeCo)の脱退一時金支給要件
- 国民年金保険料免除者であること
- 障害給付金の受給権者でないこと
- 掛金の通算拠出期間が3年以下であること(退職金等から確定拠出年金へ資産の移換があった場合には、その期間も含む)又は資産額が25万円以下であること
- 最後に企業型年金加入者又は個人型年金加入者の資格を喪失した日から起算して2年を経過していないこと
- 企業型年金から脱退一時金の支給を受けていないこと
例として、企業型年金のある会社に勤務していた外国人材が離職・帰国する場合を考えます。その方の年金資産額が15,000円より多い場合は企業型DCの脱退一時金を受けることができません。そこで資産を個人型年金に移換します。一方、個人型年金においても帰国することにより日本の公的年金制度から外れるため、個人型年金・脱退一時金支給要件の一番目の「国民年金保険料免除者である」を満たすことができなくなります。従って個人型年金でも脱退一時金を受けることができず、年金資産を60歳になるまで保有・運用指図し続けなければなりません。その後、60歳以降給付金の請求をしてゆくことになります。
但し、この制約に関しては社会保障審議会の企業・個人年金部会でも問題点として取り上げられ、以下のような改善(脱退支給要件の緩和)が議論されています。今後、法令の改正に向かってゆくものと思われます。
5 DCにおける中途引き出し(脱退一時金 の改善)
・外国籍人材が帰国する 際には 、公的年金と 同様、 脱退一時金を受給できるようにすべきである。
・日本国籍を有しない者については、(帰国すると:引用者注)iDeCo に加入できないことから、通算の掛金拠出期間が短いこと等の他の要件を満たせば、中途引き出し(脱退一時金の受給)を認めるべきである。
・一旦 iDeCo に資産を移換することなく、企業型DCから、直接、脱退一時金を受給できるようにするなど、手続面を改善する必要がある。
・脱退一時金の受給要件(通算の掛金拠出期間が3年以下)は、外国人に支給される公的年金の脱退一時金の支給額(支給上限年数が3年以下)を考慮して設定されており、公的年金の脱退一時金の支給上限年数を5年に引き上げることに併せて見直すべきである。
引用元:社会保障審議会 企業年金 ・個人年金 部会における議論の整理 令和元年12月25日
外国人材の方で、帰国前・帰国後の確定拠出年金の手続きに関してご相談のある方は、下記の機関にご相談ください:
- 企業型年金(企業型DC):勤務先の人事総務部門
- 個人型年金(iDeCo):iDeCoを契約している金融機関