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 公的年金の受取額は、日本年金機構が提供する年金ネット・サービスを使って試算することができます。しかし、この年金ネットの試算機能では日本人の典型的事例のみが対象となっています。典型的事例とは、今と同程度の保険料を支払い続けた場合の年金受給年齢・65歳以降の受取額などがあります。

 この試算機能では、日本で働いている外国人材にありがちな他の事例での年金受取額を簡単に取り扱うことができません。そのような事例として10年以上日本で年金に加入し将来年金を受給する権利を確保したのち、母国に戻ったり他の国に移ったりするケースがあります。

 この記事では、そのような外国人材が欲するシナリオでの公的年金のおおよその受取金額を試算する計算式を解説します。まずは最初の「まとめ」に記載のある計算式で試算をしてみてください。更なる詳細にご興味のある方は、この記事全体を読んで理解を深めることをお勧めします。

まとめ

  • 国民年金 (老齢基礎年金)のおおよその受取額
    • = 781,700円 x 保険料納付済年数 / 40年
  • 厚生年金 (老齢厚生年金)のおおよその受取額
    • = 厚生年金受取額 + 国民年金受取額
    • = 年収 x 0.95 x 5.481 x 保険料納付済年数 / 1000 + 国民年金受取額
    • 注:

なぜ、「おおよその」金額なのか?

 なぜ、正確な確定額ではなく、おおよその受取額しか計算できないのか、と疑問に思われる方も居られるかもしれません。その背景は以下の通りとなります。

  1. 年金額は毎年調整されています。インフレ・デフレなどによる物価や平均賃金の変動と連動させるため、年金額は毎年調整されます。この調整の仕組みにより年金額が世の中の貨幣価値や賃金水準の変動と大きく乖離しないようになります。将来の貨幣価値や賃金水準を完全に予測することはできないので、将来の年金額も確定額を計算することができず、おおよその受取額を見積もることしかできないのです。
  2. 厚生年金の年金額は、加入期間中の加入者の給与や賞与の金額によって変わります。加入者の過去の給与や賞与の金額は確定額として計算できますが、将来の給与や賞与の金額は確定していません。従いまして、将来の給与や賞与の金額を予測しておおよその受取額を見積もることになります。

3つの階層からなる日本の年金制度

 日本の年金制度は下図のように3つの階層から成り立っています。この記事では、公的年金である下の2階層における年金受取額の試算方法を解説します。最上位の第3層は特定の企業などの従業員のみが加入できる私的年金であり、年金額の規程も年金ごとに異なるのでこの記事では触れません。

  • 第1層: 国民年金
  • 第2層: 厚生年金
  • 第3層: 企業年金(確定給付・確定拠出年金)

 ここでの留意点は、日本国内に居住している20歳以上60歳未満の方は国籍に関わらず第1層の国民年金への加入が義務付けられている点です。従いまして、第2層の厚生年金加入者は、日本年金機構を介して自動的に、通常は第1層の国民年金にも同時に加入していることになります。

 同時に二つの年金に加入していることになるので、厚生年金の加入者の年金受取額は、第1層・国民年金と第2層・厚生年金双方の受取額の合計となります

第一層: 国民年金 – 老齢基礎年金のおおよその受取額

 第1層・国民年金では、通常は65歳の受給開始年齢に達した受給資格者に老齢基礎年金が支給されます。

年金額概算の計算式 = 老齢基礎年金満額 x 保険料納付済月数 / (40 年 x 12 月)

数式に使われている用語の説明は以下となります:

  • 老齢基礎年金満額: 40年間の全期間、保険料を納付した場合に支給される年金額で、毎年調整の対象となる。(本記事を書いている2021年1月時点では 781,700 円).
  • 保険料納付済月数: 国民年金の保険料を納付した月の総和。保険料免除月数がある場合は、その月数を按分して加算します。免除月数の按分方法などの詳細はお問い合わせ下さい。

 事例 1-1: 10 年間の保険料納付済期間がある方の老齢基礎年金の概算見積額は、以下の計算式により 195,425 円 = 781,700 円 x 10 年 x 12 月 / ( 40 年 x 12 月 ) となります。

 事例 1-2: 15 年間の保険料納付済期間がある方の老齢基礎年金の概算見積額は、以下の計算式により 293,138 円= 781,700 円 x 15 年 x 12 月 / ( 40 年 x 12 月 ) となります。

第二層: 厚生年金 – 老齢厚生年金のおおよその受取額

 第2層・厚生年金では、通常は65歳の受給開始年齢に達した受給資格者には老齢厚生年金が支給されます。

 厚生年金の年金額の計算は、国民年金よりも複雑です。なぜなら厚生年金の年金額は、加入期間のみならず支払った保険料に比例して変わるからです。この支払った保険料は社員一人一人異なりますので、老齢厚生年金の年金額は社員一人一人異なります。

年金額概算の計算式 = 再評価率を乗じた平均標準報酬額 x 5.481 x 被保険者期間の月数 / 1000

  • 再評価率を乗じた平均標準報酬額 は以下の計算式できます: Σ{ 再評価率 x 標準化 ( 報酬月額または賞与額 ) } / 被保険者期間の月数
    • 用語の解説
    • 再評価率: は過去の給与や賞与の金額を現在価値に変換するための係数です。毎年、数値が見直され若干変更されることがあります。
    • 標準化: とは「丸め」処理の一種で、実際の給与を予め定められた標準報酬月額で金額が近いものに置換する数値処理を指します。又、上限金額を超えた給与は標準報酬月額の上限金額に置換します。賞与の場合は1000円未満を切り捨てて、上限金額を超えた場合は上限金額で置換します。
  • 被保険者期間の月数: とは厚生年金の被保険者であった期間の月数です。
  • 5.481: これは「報酬比例部分の乗率」と呼ばれている係数で、今の現役世代の報酬で使われている乗率の値となります。具体的には、1946年4月2日以降に生まれた方の2003年4月以降の報酬や賞与にはこの値が使われます。それ以前の世代の報酬には異なる値が使われますが、この記事は現役世代の読者向けなのでこの5.481を使って計算します。

 この式で年金額を計算することはできますが、複雑で手間がかかります。そこで、精度が粗くても良いのでもっと簡便に計算したい方は、下記の当事務所オリジナルの簡略計算式でおおよその年金額を見積もってみてください。

年金額概算の簡略計算式 = 年間収入の調整金額 x 0.95 x 5.481 x 被保険者期間の年数 / 1000

 用語の解説:

  • 年間収入の調整金額: 年収を下記の一定の条件で調整した金額
    • 報酬の月額が65万円以下、又は、(年間合計賞与額ではなく、1回当たりの) 賞与が150万円以下の場合は、調整は不要です。実際の報酬月額と賞与額を使って計算した年間収入を調整金額として計算式で使えます。
    • 報酬の月額が65万円を超える場合には、切り下げた65万円を調整された月額として、年間収入の調整金額の計算で使います。
    • (年間合計賞与額ではなく、1回当たりの) 賞与が150万円を超える場合には、切り下げた150万円を調整された賞与額として、年間収入の調整金額の計算で使います。
  • 再評価率: は 0.95 を固定的な値として簡略計算式で使います。過去10年程度の期間では、再評価率はおおよそ 0.93 から 0.98 程度で推移しております。したがって、一律 0.95 で計算しても大きな差が出ず、簡略に計算するという目的に合っています。

 事例 2-1: 10 年間の厚生年金加入期間を有する被保険者の年間収入の調整金額が600万円で、平均的な報酬月額が40万円・年2回の平均的な賞与が1回当たり60万円の場合、金額調整が入らないので、312,417 円 = 6,000,000 円 x 0.95 x 5.481 x 10 年 / 1,000 となります。

 (事例 2-1: 続き) この厚生年金の被保険者が受け取る年金額は、事例 1-1 で計算した第1層の老齢基礎年金と事例 2-1で計算した第2層の老齢厚生年金との合計金額となり、そのおおよその金額は 507,842 円 = 195,425 円 + 312,417 円 となります。

 事例 2-2: 15 年間の厚生年金加入期間を有する被保険者の年間収入の調整金額が1,240万円で、平均的な報酬月額が70万円・年2回の平均的な賞与が1回当たり200万円の場合、金額調整が入り報酬月額は65万円、賞与は150万円に調整されます。すると、年間収入の調整金額 10,800,000 円 (= 650,000 x 12 + 1,500,000 x 2) となるので、 老齢厚生年金のおおよその年金額は 843,526 円 = 10,800,000 円 x 0.95 x 5.481 x 15 年 / 1,000 となります。

 (事例 2-2: 続き) この厚生年金の被保険者が受け取る年金額は、事例 1-2 で計算した第1層の老齢基礎年金と事例 2-2で計算した第2層の老齢厚生年金との合計金額となり、そのおおよその金額は 1,136,664 = 293,138 円 + 843,526 円 となります。

世帯全体での年金受取額

 あなたが日本に在留している時に配偶者が居られる場合には、その配偶者の方も日本の公的年金に加入していることになります。配偶者の年金も合算して世帯全体の年金額を見積もりたいという要望もあると思います。

世帯全体の年金額 = あなたの年金額 + 配偶者の年金額

 配偶者の方の雇用形態により、配偶者の公的年金の加入の類型は以下のようになります。どの類型に当てはまるかで、配偶者の年金は、第1層と第2層との合計額の場合と、第1層のみの場合とに分かれます。

  1. 配偶者の方がフルタイムの正社員である場合:
    • 配偶者は、大方、会社を介して、第1層の国民年金と第2層の厚生年金、双方に加入していることになります。
    • すると、配偶者の年金額は、上述した計算式で見積もった第1層と第2層の年金額の合算額となります。
  2. 配偶者の方がパートタイム勤務で年収が106万円又は130万円以上の場合、公的年金加入に関しては下記の2つの可能性があります。どちらが当てはまるかを理解したうえで、配偶者の年金額を見積計算してください。.
    • 勤務先を介して厚生年金に加入している場合: 第1層・国民年金と第2層・厚生年金の両方から年金が出ますので、上述の事例2-1や2-2を参考にして合計額を計算してください。
    • 勤務先での厚生年金の加入はなく、個人的に保険料を払って国民年金のみに加入している場合: 上述の事例1-1や1-2を参考にして国民年金の年金額を計算してください。
  3. 配偶者の方がパートタイム勤務で年収が106万円又は130万円未満の場合 又は 配偶者の方が働いていない場合:
    • このケースであなたが厚生年金の被保険者である場合には、配偶者の方は、個人的に保険料を払っていなくてもあなたの配偶者として間接的に国民年金のみに加入しています。上述の事例1-1や1-2を参考にして国民年金の年金額を計算してください。
    • 注記: この間接的な加入者は国民年金の第3号被保険者と呼ばれています。保険料の支払いが制度的になされ被保険者には明確でないので、この加入は見落とされがちです。あなたが給与から天引きされている厚生年金の保険料の一部が、配偶者の国民年金の保険料として充当されています。このような間接的な加入者でも、(間接的な)保険料納付期間が10年以上になると国民年金の老齢基礎年金の受給権を持つことになります。

 注記: 上記の場合分けの#2と#3を分けている年収の閾値で、106万円又は130万円のどちらを使うのかは、配偶者の方の労働条件や雇用主の従業員数などで決まります。ご興味のある方は、「被扶養者の限度額 (106万円又は130万円)」(「社会保障:所得控除による配偶者の社会保険料の負担軽減」の記事の中の記述) をご覧ください。

参考情報

  1. 日本の公的年金の老齢年金は「終身」です。つまり年金受給者が死ぬまで一生涯続きます。
  2. 被保険者や年金受給者が死亡した場合も、一定の要件を満たすと遺族基礎年金又は遺族厚生年金が出ることがあります。
    • 参考例: 典型的な例としては、死亡した被保険者又は年金受給者に依存して生計を立てていた配偶者と18歳未満の子が遺族として遺された場合、以下の年金が支給されます:
      • 遺族基礎年金: おおよそ100万円/年が、子が18歳になるまで支給されます。
      • 遺族厚生年金: 死亡した被保険者又は年金受給者の老齢厚生年金額の4分の3が配偶者に生涯支払われます。(注: 被保険者の死亡の場合は25年間加入したものと想定した老齢厚生年金額の4分の3となります。配偶者自身が自分の公的年金を受給する場合には、併給調整が行われます)
  3. 年金は、母国や第三国に帰国して日本に居住地がない場合でも支給されます。

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